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中井克樹(2004) ブラックバス等の外来魚による生態的影響

              用水と排水 46巻1号: 48-56.


 著者は、滋賀県立琵琶湖博物館に勤務し、ブラックバスブルーギルといった外来魚による生態的影響の研究を行うとともに、総説等で外来魚の問題を訴えてきた。今回紹介する総説によって、ブラックバスの特性などの基本的な事柄を知ることができる。著者は、本論文で、自らの研究と引用文献等に基づいて、ブラックバスの生態的影響について詳細に述べている。

 すなわち、ブラックバスとは、サンフィッシュ科オオクチバス属の魚の総称で、わが国にはオオクチバスコクチバスが定着している。前者は1970年頃にわが国で確認され急速に分布を拡大し、後者は1991年に確認されて以来、定着水域を広げている。また、サンフィッシュ科のブルーギルもオオクチバスに少し遅れて分布を広げている。

 わが国の淡水魚の中には絶滅を危惧される種があるが、サンフィッシュ科魚類の影響が問題となっており、この中でも、特に、オオクチバスの影響が大きいことが述べられている。著者は、オオクチバスとブルーギルの淡水魚類に及ぼす影響を、琵琶湖、京都市の深泥池、東京都の皇居外苑濠および秋田各地での状況を引用文献から得た情報を含めて述べている。

 琵琶湖では、オオクチバスが1974年に初捕獲され、1980年代後半に激増のピークをむかえ、この頃に、在来の魚類群集が激変したという。オオクチバスが激増する前には30種の魚類が確認されたが、激増後は15種が確認されなくなり、9種が減少した。1985年に捕獲されたオオクチバスの胃内容物は重量で約44%が魚類で占められ、捕食対象は12種にのぼった。琵琶湖では沿岸性魚類の減少が1980年代から続いている。その後、1990年代に入ると、オオクチバスは減少し、ブルーギルが増加し、2002年度の駆除個体は重量比で前者1、後者5の割合となっていた。しかし、オオクチバスが魚類とエビ類を捕食するのに対し、ブルーギルは重量比で半分が植物、残りをミジンコや水生昆虫などが占め、魚類やエビ類の比率は低かった。このことから、オオクチバスの魚類やエビ類の捕食量は、全体としてブルーギルと大きくは変わらないと推定している。

 皇居外苑濠については、2002年に実施された捕獲調査に基づいて分析され、オオクチバスとブルーギルが生息した濠(8箇所)と、両外来種が生息しない濠(5箇所)との魚類捕獲数が比較された。両外来種が生息しない濠では、在来種が約42匹捕獲されたが、両外来種が生息する濠では在来種が約4匹、両外来種が約18匹捕獲され、在来種が激減していた。

 秋田県では、外来魚の駆除事業の結果から、オオクチバスが個体数、重量とも圧倒的に多く、小型魚はほとんど見られず、オオクチバスが捕食している魚が同種の当歳魚しか確認できない場合があるという。このことから、オオクチバスによる極めて強い捕食圧がかかっていると思われる。

 これらの結果から、著者は、オオクチバスが侵入した止水域では、遊泳性の強い小型魚種や中・大型種の若齢個体が著しい影響を受けると述べている。オオクチバス及びブルーギルの生息する水域では、タナゴ類などの絶滅が危惧され、一方、モツゴや底生のハゼ科の一部が生き残る可能性があるという。しかし、皇居外苑濠では、モツゴやハゼの仲間が激減している事実も示されている。

 最後に、著者は、在来種の減少が外来種のためではなく、環境変化が主因であるという反論に対して、世界各地で外来生物問題が続発していることからも分かるように、オオクチバスのような魚種と在来魚種の共存は困難であると述べている。そして、外来魚の生態的影響については、データを入手して分析し、科学的に論議すべきであると主張している。 

 外来生物による生態系や農林水産業への被害に対して、2004年に外来生物法が成立し、翌年6月に施行され、この時に「特定外来生物」としてオオクチバスが指定された。この総説で述べられた内容の一部は、オオクチバスを「特定外来種」に指定すべきかどうかを検討する環境省の「オオクチバス小グループ会合」の参考資料として提出され、オオクチバスによる生態的影響の根拠の1つとされた。

  筆者は、近くのため池で、実際に生物相調査をしているが、この総説によって教えられるところが多かった。生物の生息には、環境条件の変化による影響も見逃すことが出来ないが、その上で、外来生物がどの程度、生態的影響を及ぼしているのかを判断ためには、既往のデータによく目を通して科学的に分析していくことが重要であり、さらに、具体的に身近な生態系を調べてみて、生態系のかく乱の状況を実際に知ることも大事なことであると考える。
(2006.12.16 M.M.)


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